不当解雇の慰謝料とは?相場金額や判例2つと払わない会社への請求方法

外資系企業から不当解雇をされてしまい慰謝料を請求したいと考えていませんか?
理不尽に解雇されてしまい納得できずに悔しい思いをしている方も多いはずです。
不当解雇の慰謝料とは、不当解雇により被った精神的苦痛に対する補填としての賠償のことです。
不当解雇の慰謝料相場は50万円~100万円程度と言われていますが、不当解雇とされても慰謝料までは認められない事案が少なくありません。
不当解雇の慰謝料を請求したい場合には、慎重に方針を検討したうえで、他の請求に支障が生じないよう一貫した対応を行っていくべきです。
不当解雇の慰謝料以外にも請求を検討すべき内容があり、不当解雇を争う際の主な金銭的な請求は慰謝料以外の請求であることが通常であるためです。
実は、不当解雇をされた際の請求は、法的な構成次第で金額が大きく変わる可能性があり、非常にテクニカルの側面があります。
労働者が解雇を争いたい主な理由は精神的苦痛にあることも多いですが、現在の裁判実務上は慰謝料相場が非常に低廉な傾向にあることを踏まえて、方針を決める必要があります。
この記事をとおして、外資系企業から解雇されてしまい慰謝料を請求したいと考えている方に是非知っておいていただきたい知識やノウハウをお伝えすることができれば幸いです。
今回は、不当解雇の慰謝料とは何かを説明したうえで、相場金額や判例2つと払わない会社への請求方法を解説していきます。
この記事を読めば、外資系企業から不当に解雇されてしまい慰謝料を請求したいと感じた場合にどうすればいいのかがよくわかるはずです。
目次(contents)
1章 不当解雇の慰謝料とは
不当解雇の慰謝料とは、不当解雇により被った精神的苦痛に対する補填としての賠償のことです。
解雇の悪質性が高い場合には、労働者の権利を違法に侵害するものとして、不法行為に該当することになります。
不法行為に該当する場合には、損害賠償を請求できるとされています。ここでいう損害には慰謝料も含まれることになります。
ただし、注意する必要があるのは、解雇が濫用として無効となるだけでは、慰謝料が認められるような違法な解雇とまでは言えないことです。
つまり、不当解雇と言うだけでは慰謝料までは認めてもらうことができません。
不当解雇が違法に権利を侵害するものであるとして慰謝料まで認められるには、解雇が濫用となるだけではなく、著しく社会的相当性に欠けることまで必要とされています。
例えば、「解雇に理由が全くないケース」や「嫌がらせなどが伴うケース」などであれば、慰謝料まで認められる可能性があるでしょう。
2章 不当解雇の慰謝料相場はいくら|平均金額は?
不当解雇の慰謝料相場は50万円~100万円程度と言われていますが、不当解雇とされても慰謝料までは認められない事案が少なくありません。
不当解雇の慰謝料金額については、以下のような要素を考慮して決められることになります。
・解雇理由を説明したか
・労働者の落ち度
・勤続年数
・精神疾患の発症有無
不当解雇と認められた場合には、通常、解雇日から解決日までの給料が遡って支払われることになりますので、これにより一定程度精神的苦痛は癒えるものと考えられています。
例えば、外資系企業の不当解雇事件では、第5章で説明するように、いわゆるバックペイだけで数千万円に上ることが傾向にあります。
不当解雇の慰謝料は、このような他の金銭的な支払いがされてもなお癒えないような精神的苦痛に対して認められることになります。
つまり、不当解雇の慰謝料については、他の金銭的な請求の+αとして、調整的な役割をもつ賠償として認められることがあるというのが実態です。
そのため、実際に労働者が受けた精神的苦痛に比して、不当解雇の慰謝料の金額は高額になりにくい傾向にあるのです。
3章 不当解雇の慰謝料と外資系企業の判例2つ
不当解雇の慰謝料については、少しずつ判例が蓄積してきました。
これらの判例を見ていくことで、どのような場合にいくらくらいの慰謝料が認められるかがわかるはずです。
以下では、外資系企業の不当解雇の慰謝料の判例を2つ紹介します。
それでは、順番に見ていきましょう。
3-1 東京地判平成14年9月3日労働判例839号32頁[エスエイピー・ジャパン事件]
【事案】
コンピュータソフトウェアの販売等を目的とする会社において、マーケティング本部長として働いていた方、及び、ソリューション・マーケティング担当ラインマネージャーとして働いていた方が懲戒解雇された事案です。
【結論】
慰謝料55万円認容
【理由】
約1100名の全社員に懲戒解雇の事実を通知したこと、数十名の社員に不正確な事実を告げたこと、企業向け業務用ソフトウエアの業界が特殊で狭い業界であり、原告らがその中で名の知られた存在であることからすると,原告らの被った精神的苦痛は大であるということができるとされました。
しかし、その原因が原告ら自身にあり、それが重大な内容のものであることからするとその責任の大半は原告らにおいて負担せざるを得ないものであるとされました。
その他、原告らの被告会社における地位、勤務期間、本件の経緯、原告らが懲戒解雇前に再就職をしていたこと、原告らが本件を弁護士に委任して訴訟の提起追行を行ったことなど、一切の事情を考慮したとされています。
3-2 東京地判平成29年7月3日判例タイムズ1462号176頁[シュプリンガー・ジャパン事件]
【事案】
英文の学術専門書籍、専門誌の出版及び販売等を行う会社で働いていた従業員が産休及び育休を取得した後に解雇された事案です。
【結論】
慰謝料50万円認容
【理由】
解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないものと解されるとされました。
もっとも、本件においては、原告が休業後の復職について協議を申し入れたところ、被告はおよそ受け入れ難いような部署・職務を提示しつつ退職勧奨がされ、原告がこれに応じないことを受け、紛争調整委員会の勧告にも応じないまま、均等法及び育休法の規定にも反する解雇を敢行したという経過をたどっていました。
こうした経過に鑑みると、原告がその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが見て取れ、賃金支払等によって精神的苦痛がおおむね慰謝されたものとみるのは相当でないとされました。
4章 不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順
不当解雇の慰謝料を請求したい場合には、慎重に方針を検討したうえで、他の請求に支障が生じないよう一貫した対応を行っていくべきです。
仮に解雇が不当であり、更に違法である場合でも、あなたが何も行動を起こさなければ、会社は、解雇が正当なものとして手続きを進めていきます。
あなた自身の権利やキャリアを守るためには、自分から行動を起こしていく必要があるのです。
具体的には、不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順としては以下のとおりです。
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
それでは、これらの手順について順番に説明していきます。
4-1 手順1:弁護士に相談する
不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順の1つ目は、弁護士に相談することです。
まず不当解雇をされた場合には、法的な見通しやリスクを分析してもらい、あなたの意向を踏まえて、適切な方針について助言をしてもらいましょう。
一度決めた方針を後から変えることは容易ではなく、慰謝料請求も含めどのように解雇を争っていくかを決めたうえで、一貫した対応をしていくことが大切だからです。
この方針次第で最終的に獲得できる金額も大きな影響が出てくることになります。
ただし、外資系企業は、不当解雇の紛争に慣れていることが多く、手続きも専門的なので、労働者も対等な立場で交渉するために弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
4-2 手順2:通知書を送付する
不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順の2つ目は、通知書を送付することです。
会社から不当に解雇されたら、早い段階で、解雇が濫用として無効である旨を記載した通知書を送付しておきましょう。
会社から解雇されてしまった後に何もせずに放置していると、解雇を認めていたと指摘されたり、働く意思を失っていたと指摘されたりすることがあるためです。
また慰謝料を請求したい場合には、この際に、併せて、慰謝料についても記載しておくことが考えられます。
4-3 手順3:交渉する
不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順の3つ目は、交渉することです。
会社からの回答があったら争点が明らかになりますので、話し合いにより折り合いをつけることが可能かどうか協議してみましょう。
示談により解決することができれば、早期に少ない負担と労力で良い解決をできる可能性があります。
4-4 手順4:労働審判・訴訟を提起する
不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順の4つ目は、労働審判・訴訟を提起することです。
話し合いによる解決が難しい場合には、労働審判や訴訟などの裁判所を用いた解決を検討します。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
不当解雇の訴訟については、以下の記事で詳しく解説しています。
5章 不当解雇の慰謝料以外に請求を検討すべき内容
不当解雇をされた場合には、慰謝料以外にも請求を検討すべき内容があります。
むしろ、不当解雇を争う際の主な金銭的な請求は、慰謝料以外の請求であることが通常です。
もし、あなたが不当解雇の慰謝料を請求したいと考えた場合であっても、他の請求に支障が生じないように十分に注意することが大切です。
例えば、不当解雇の慰謝料以外に請求を検討すべき内容としては以下のとおりです。
・不当解雇の示談金
それでは、これらについて順番に説明します。
5-1 バックペイ
不当解雇の慰謝料以外に請求を検討すべき内容の1つ目は、バックペイです。
バックペイとは、解雇が濫用として無効とされた場合に遡って支払われることになる解雇日から解決日までの給料のことをいいます。
解雇が不当とされた場合には、通常、解雇日以降に労働者が出勤することができなかったのは、会社側に原因があることになります。
そのため、解雇日以降の給料を遡って請求できる可能性があるのです。
例えば、あなたが2025年4月30日付で解雇されてしまい、2026年4月30日に解雇が不当であると認められたとします。
あなたの年俸は2500万円だったとすると、解雇が不当とされた場合には遡って2500万円が払われる可能性があることになります。
バックペイについては、以下の記事で詳しく解説しています。
5-2 不当解雇の示談金
不当解雇の慰謝料以外に請求を検討すべき内容の2つ目は、不当解雇の示談金です。
不当解雇の示談金とは、不当解雇の紛争を解決するために会社から支払われることになる金銭です。
外資系企業における不当解雇の示談金相場は、給料の3ケ月分~24ケ月分です。
手続きごとに、もう少し詳しく整理していくと以下のとおりです。
不当解雇の示談金については、以下の記事で詳しく解説しています。
6章 不当解雇の慰謝料についてよくある疑問3つ
不当解雇の慰謝料についてよくある疑問としては、以下の3つがあります。
Q2:不当解雇の慰謝料の時効は?
Q3:うつ病で不当解雇の慰謝料を増額される?
これらの疑問について順番に解消していきましょう。
6-1 Q1:不当解雇の慰謝料の税金は?
A:不当解雇の慰謝料の税金は、非課税となります。
ただし、税務署は実態で判断することになりますので、名目を慰謝料としても実態が伴わない場合には課税される可能性があります。
6-2 Q2:不当解雇の慰謝料の時効は?
A:3年です。
起算点は争いになることがありますが、争点が拡大するのを防ぐため、解雇された時点から3年以内に請求することがおすすめです。
ただし、バックペイの請求なども行う際には、時効とは関係なく解雇後速やかに行動をするようにしましょう。
6-3 Q3:うつ病で不当解雇の慰謝料を増額される?
A:増額される可能性があります。
ただし、就労の能力を喪失しているとして、バックペイの請求が難しくなってしまう場合もあります。
労災と認定されれば休業損害を請求できる可能性もありますが、業務起因性が認められるハードルは高くなっています。
そのため、事前にどのような請求をしていくか方針を慎重に検討するようにしましょう。
7章 外資系企業の解雇はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
外資系企業の解雇の相談は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
この分野は、専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇の有効性につき見通しを分析したうえで、あなたの意向を踏まえて、外資系企業の性質に応じて適切に方針を策定する必要があります。
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8章 まとめ
以上のとおり、今回は、不当解雇の慰謝料とは何かを説明したうえで、相場金額や判例2つと払わない会社への請求方法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
“まとめ”
・不当解雇の慰謝料とは、不当解雇により被った精神的苦痛に対する補填としての賠償のことです。
・不当解雇の慰謝料相場は50万円~100万円程度と言われていますが、不当解雇とされても慰謝料までは認められない事案が少なくありません。
・外資系企業の不当解雇の慰謝料の判例としては以下のものがあります。
・不当解雇の慰謝料を払わない会社への請求手順としては以下のとおりです。
手順1:弁護士に相談する
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
・不当解雇をされた場合には、主な金銭請求は慰謝料以外になるのが通常です。バックペイや示談金の請求を検討するようにしましょう。
この記事が外資系企業から不当解雇をされてしまい慰謝料を請求したいと考えている方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日