バックペイとは?解雇無効時の計算方法や相場と中間収入・税金の処理

バックペイがどのようなものか知りたいと悩んでいませんか?
あまり聞いたことがない単語のため難しく感じてしまっている方も多いかもしれません。
バックペイとは、解雇が無効とされた場合に企業が遡って支払うことになる解雇日以降の賃金のことです。
バックペイの計算方法は、解雇されなかったならば確実に支給されたであろう金額が基準とされます。
ただし、解雇後に再就職をした場合には、再就職後は請求できるバックペイの金額は6割程度まで減ってしまう可能性があります。
バックペイに相場はありませんが、争っていた期間の賃金が遡って払われることになりますので、訴訟であれば1年~2年分の賃金を支払うように命じられる傾向にあります。
バックペイについては、賃金としての性質を有しますので、住民税や所得税等の税金、健康保険料や厚生年金保険等の社会保険料が源泉されることになります。
もしも、企業から解雇されてしまった場合には、バックペイを回収するためにも焦らずに対処していくようにしましょう。
この記事をとおして、外資系企業を解雇されてしまった労働者の方々にバックペイがどのようなものかを知っていただければ幸いです。
今回は、バックペイとは何かを説明したうえで、解雇無効時の計算方法や相場と中間収入・税金の処理について解説していきます。
この記事を読めば、バックペイがどのようなものかよくわかるはずです。
バックペイについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次(contents)
1章 バックペイとは
バックペイとは、解雇が無効とされた場合に企業が遡って支払うことになる解雇日以降の賃金のことです。
企業は、労働者を解雇した場合、解雇日をもって労働者が退職したと処理しますので、解雇日以降の給料を支払わなくなります。
しかし、解雇が不当で無効となる場合には、解雇日以降に労働者が企業に出勤できなかったのは、企業側の落ち度によるものであったことになります。
そのため、解雇日以降、労働者が企業に出勤していなかったとしても、企業は遡って労働者に対して給料を支払わなければいけなくなるのです。
例えば、2025年3月31日をもって解雇された場合には、労働者は3月31日で退職したものと扱われます。
そして、解雇が不当である場合には、2025年4月1日以降、出勤できなかった原因は企業にあることになります。
つまり、企業は、解雇が不当とされた場合には、バックペイとして、2025年4月1日以降の給料を後から遡って賃金を払わなければいけないのです。
2章 バックペイの計算方法|賞与や手当
バックペイの計算方法は、解雇されなかったならば確実に支給されたであろう金額が基準とされます。
基本給のほか、毎月固定額として支給されている手当(役職手当か家族手当、住宅手当)についても、バックペイの基礎に含まれる傾向にあります。
これに対して、残業代については、時間外勤務をして初めて支給されるものなので、バックペイの基礎には含まれないとされています。
また、通勤手当については、毎月実際にかかった費用が支払われているような事例では、通勤手当はバックペイの基礎に含まれません。
加えて、賞与については、固定額で合意されているか又は計算方法が決められていない場合には、バックペイの基礎に含まれません。
歩合給については、解雇前数か月間の平均額などを基準にして計算するのが通常です。
例えば、月額の給与が以下のとおりの場合には、バックペイの基礎は、基本給83万3333円、役職手当10万円、住宅手当13万円の合計106万3333円となります。
ただし、中間収入については上記より控除されることになり、これについては第3章で説明します。
3章 バックペイと中間収入|再就職後は6割
解雇後に再就職をした場合には、再就職後は請求できるバックペイの金額は6割程度まで減ってしまう可能性があります。
再就職した企業から支払われた賃金は解雇されたから得られたものであり、これに加えてバックペイも全額もらえるとなる受け取りすぎになってしまうことがあるためです。
「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」
ただし、中間収入の控除の対象とされるのは、平均賃金の6割を超える部分に限られています(最二小判昭37.7.20民集16巻8号1666頁[米軍山田部隊事件])。
中間収入を控除する際にはバックペイと時期的に対応している必要があり、例えば、再就職前の機関に対応するバックペイ部分からは中間収入を控除できません(最判昭和62年4月2日)。
4章 バックペイの相場
バックペイに相場はありません。
なぜなら、解雇日から判決確定日までの賃金が遡って支払われることになるためです。
不当解雇を争っていた期間により支払われるバックペイの金額も変わってくることになります。
例えば、訴訟の平均期間は一般に1年程度と言われますが、実際には1年以上かかることの方が多く、解雇日からだと2年程度経ってしまうということも珍しくありません。
そのため、訴訟であれば、1年~2年分の賃金を支払うように命じられる傾向にあります。
ただし、上記はあくまでも判決になった場合のバックペイの金額であり、早期に和解で解決する場合の解決金の相場は以下のとおりです。
不当解雇の解決金の相場については、以下の記事で詳しく解説しています。
5章 バックペイの税金や社会保険料
バックペイは、通常、住民税や所得税等の税金、健康保険料や厚生年金保険等の社会保険料が源泉されます。
バックペイの性質は、賃金であるためです。
ただし、判決後に強制執行により回収する場合には、源泉前の額面金額により企業の財産を差し押さえることができます(税金と社会保険料の労働者負担分は別に企業から求償されます)。
これに対して、和解をして、企業から解決金が支払われる場合には、その性質について実態に基づき判断されることになります。
例えば、バックペイの趣旨で支払われる場合は給与所得となりますし、紛争を解決するための目的で支払われる場合には一時所得となることもあります。
一時所得とされる場合には、税金や社会保険料は源泉されません。税金については自分で確定申告をすることになります。
6章 バックペイを請求する方法
企業から解雇されてしまった場合には、バックペイを回収するためにも焦らずに対処していくようにしましょう。
企業は解雇が有効であることを前提に手続きを進めますので、労働者が何も行動を起こさなければ、バックペイも支払われません。
具体的には、不当解雇をされた際にバックペイを請求する手順は以下のとおりです。
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
それでは、これらの手順について順番に説明していきます。
6-1 手順1:弁護士に相談する
バックペイを請求する方法の1つ目は、弁護士に相談することです。
不当解雇に該当するか、バックペイを請求できるかは、法的な事項となりますので、法律の専門家である弁護士にサポートをしてもらうべきだからです。
まずは、見通しとあなたの意向を踏まえて、どのような方針がいいか助言してもらうといいでしょう。適切な方針のもと一貫した対応をしていくことが成功の秘訣です。
ただし、弁護士であれば誰でもいいというわけではなく、外資系企業の不当解雇問題に実績のある弁護士を探すといいでしょう。
6-2 手順2:通知書を送付する
バックペイを請求する方法の2つ目は、通知書を送付することです。
不当解雇をされた際には、早い段階で、解雇が無効であることを指摘したうえで、解雇理由証明書を請求するようにしましょう。
労働者が解雇をされて何もしないでいると、労働者も退職に同意していて、働く意思を失っていたと反論されることがあるためです。
解雇理由証明書は、文字通り、解雇の理由が記載された書面であり、雇用主は労働基準法により労働者の請求に応じてこれを交付する義務があります。
解雇理由証明書をもらうことで、見通しがクリアになりますし、どのような主張や証拠を準備すればいいのかも明らかになります。
6-3 手順3:交渉する
バックペイを請求する方法の3つ目は、交渉をすることです。
通知書を送付し、会社から回答があった場合には、話し合いにより折り合いをつけることが可能かどうか交渉を行うことになります。
双方の主張が明らかになり争点が明確になり、話し合いの前提となるような共通認識を構築することができれば、早期に解決できる場合があります。
交渉の方法については、とくに決まった方法はなく、書面により交渉したり、電話により交渉したり、面談をしたりと様々です。
状況に応じて適切な方法を選択していくことになります。
6-4 手順4:労働審判・訴訟を提起する
バックペイを請求する方法の4つ目は、労働審判・訴訟を提起することです。
話し合いによる解決が難しい場合には、裁判所を用いた解決を検討することになります。
労働審判は、全三回の期日で調停による解決を目指す手続きであり、調停が成立しない場合には労働審判委員会が審判を下します。迅速、かつ、適正に解決することが期待できます。
労働審判については、以下の動画でも詳しく解説しています。
訴訟は、期日の回数の制限などは特にありません。1か月に1回程度の頻度で期日が入ることになり、交互に主張を繰り返していくことになります。解決まで1年程度を要することもあります。
不当解雇の裁判については、以下の記事で詳しく解説しています。
不当解雇の裁判については、以下の動画でも詳しく解説しています。
7章 バックペイについてよくある疑問
不当解雇の裁判についてよくある疑問として以下の3つがあります。
Q2:バックペイの時効は?
Q3:バックペイと失業保険は両方もらえる?
これらの疑問について順番に解消していきましょう。
7-1 Q1:バックペイはいつまでもらえる?
A.バックペイについて、いつまでと言う期限はありません。
企業の責めに帰すべき事由により働けなかった期間についてもらえるものだからです。
例えば、不当解雇の裁判が長期化して、地裁で終わらず、控訴審、最高裁と争い、解決に5年を要したとすると、5年分のバックペイが支払われる可能性があることになります。
ただし、契約社員の方は契約期間、定年間近の方は年齢の関係で、一定期間を超えてバックペイを請求することが難しい場合もあります。
7-2 Q2:バックペイの時効は?
A.バックペイの時効は、各給料支払日から3年です。
ただし、時効にかかっていないとしても、長期にわたり不当解雇を放置すれば、就労の意思を否定されたり、黙示の退職合意を認定されたりして、バックペイの請求が難しくなります。
そのため、不当解雇をされたらすぐに行動を起こすようにしましょう。
7-3 Q3:バックペイと失業保険は両方もらえる?
A.バックペイが支払われた場合には、失業保険については返還する必要があります。
不当解雇を争う際には、失業保険の仮給付を受けることになります。あくまでも仮なので、解雇が無効とされたら、失業保険は返還することになります。
通常、企業から支払われたバックペイを原資にして、仮給付を受けていた失業保険については返還します。
ただし、解雇日付で会社都合により合意退職したとの和解をする場合には、解決金も獲得しても、失業保険を返さずに済む可能性があります。
8章 外資系企業の不当解雇はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
外資系企業の不当解雇は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
この分野は、専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇の有効性につき見通しを分析したうえで、あなたの意向を踏まえて、外資系企業の性質に応じて適切に方針を策定する必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨事件に力を入れており、特に外資系企業とのパッケージ交渉について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
解決実績の一部については、以下のページから確認する事が出来ます。
解決事例 | 外資系労働者特設サイトbyリバティ・ベル法律事務所 (libertybell-tokusetu.com)
また、解雇やパッケージ交渉を含む退職勧奨対応については、依頼者の方の負担を軽減するために着手金無料、完全成功報酬としております。
初回相談は無料となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
9章 まとめ
以上のとおり、今回は、バックペイとは何かを説明したうえで、解雇無効時の計算方法や相場と中間収入・税金の処理について解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
“まとめ”
・バックペイとは、解雇が無効とされた場合に企業が遡って支払うことになる解雇日以降の賃金のことです。
・バックペイの計算方法は、解雇されなかったならば確実に支給されたであろう金額が基準とされます。
・解雇後に再就職をした場合には、再就職後は請求できるバックペイの金額は6割程度まで減ってしまう可能性があります。
・バックペイに相場はありませんが、争っていた期間の賃金が遡って払われることになりますので、訴訟であれば1年~2年分の賃金を支払うように命じられる傾向にあります。
・バックペイは、通常、住民税や所得税等の税金、健康保険料や厚生年金保険等の社会保険料が源泉されます。
・不当解雇をされた際にバックペイを請求する手順は以下のとおりです。
手順1:弁護士に相談する
手順2:通知書を送付する
手順3:交渉する
手順4:労働審判・訴訟を提起する
この記事が外資系企業を解雇されてしまいバックペイがどのようなものか知りたいと悩んでいる労働者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日