退職時に有給の買い取りは交渉可能?買取金額と拒否された際の対処法
退職時に有給の買い取りをしてほしいと悩んでいませんか?
退職日までに有給を消化しきれない場合には、買い取ってしてほしいと考えるのは、労働者として当然ですよね。
退職時の有給買い取りとは、退職日時点の年次有給休暇の残日数に応じた手当を支払うことをいいます。
有給買い取りは、有給消化に比べて、退職日を早くすることができますので、失業保険の受給時期を早めることができます。また、社会保険や税金の負担が給与所得よりも少なくて済みます。
有給買い取りについては、通常時は違法となりますが、退職時であれば適法とされていますので、交渉が可能です。
退職時の有給買い取りの計算方法は、「有給の買取を平均賃金で計算する方法」、「有給の買取を通常の賃金で計算する方法」、「有給の買取を健康保険法上の標準報酬日額相当額で計算する方法」の3つがあります。
退職時に有給買い取りを拒否された際の対処法としては、買い取りをしてもらえない場合には退職日を有給消化後にする旨を伝えて、その不合理性を説明することになります。
退職時の有給買い取りにより支払われる手当は、退職所得であるため、退職所得の受給に関する申告書を提出することを忘れないようにしましょう。
実は、有給の買い取り以外にも、交渉すべき退職条件は多岐にわたりますが、十分に交渉せずに退職合意書にサインしてしまう方が少なからずいます。
これについても、少しでも多くの方に知っていただければ幸いです。
今回は、退職時に有給の買い取りは交渉可能かを説明したうえで、買取金額と拒否された際の対処法を解説していきます。
この記事を読めば、退職時の有給買い取りについてよくわかるはずです。
退職時の有給休暇の買い取りについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
目次(contents)
1章 退職時の有給買い取りとは?
退職時の有給買い取りとは、退職日時点の年次有給休暇の残日数に応じた手当を支払うことをいいます。
労働者によっては退職日までに年次有給休暇を消化しきれずに、残ってしまうことがあります。
企業によっては、退職時の年次有給休暇の買い取りの制度を設けていることがあります。
また、退職時の年次有給休暇の買い取り制度を設けていない場合であっても、会社側が買い取りを提案してもらえることがあります。
とくに、企業から労働者に対して、退職勧奨を行う場合には、年次有給休暇の買い取りが提案される傾向にあります。
例えば、退職日時点で年次有給休暇が10日余っていたとすると、その10日分に相当する手当を残日数1日あたり●●円というかたちで支給するのです。
2章 退職時の有給買い取りのメリット・デメリット|有給消化と買取の違い
退職時の有給買取については、メリットとデメリットがあります。
有給消化と買い取りの違いを比較すると以下のとおりです。
有給の買い取りの方が労働者としても、会社としても、メリットが大きいことが多いです。
しかし、在籍期間を延ばしたいような方は、有給消化の方が望ましい場合もあります。
3章 有給買い取りは退職時であれば交渉可能|退職時の買い取りは違法ではない
有給の買い取りについては、退職時であれば交渉可能です。
有給の買取については、原則として、違法とされています。
有給の買い取りを認めてしまうと、心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を実現するという、年次有給休暇が認められた労働基準法の趣旨に反してしまうためです。
しかし、退職時であれば、例外的に、有給を買い取ることも適法とされています。
退職してしまった後は有給を使うことができなくなってしまうため、買い取ったとしても年次有給休暇が認められた趣旨には反しませんし、労働者の利益にもなるためです。
実務上は、有給の買い取りという言葉を用いますが、正確には、有給の残日数に応じた手当を支給するという処理になります。
そのため、通常時は有給の買い取り交渉をすることはできませんが、退職時であれば有給の買い取りを交渉することができるのです。
4章 退職時の有給買い取りの計算方法
退職時の有給買い取りの計算方法は、以下の3があります。
②有給の買取を通常の賃金で計算する方法
③有給の買取を健康保険法上の標準報酬日額相当額で計算する方法
就業規則の年次有給休暇に関する規定において計算の方法が定められているはずなので、確認してみてください。
①の平均賃金とは、退職日以前3ヵ月間に労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額です
②の通常の賃金とは、所定労働時間働いた場合に支払われる通常の賃金のことです
③の標準報酬月額とは、健康保険・厚生年金保険の被保険者の保険料や保険給付の計算に用いられるものです。
5章 退職時に有給買い取りを拒否された際の対処法
退職時に有給買い取りを拒否された際の対処法としては、買い取りをしてもらえない場合には退職日を有給消化後にする旨を伝えて、その不合理性を説明することになります。
法律上は、企業に退職時の有給買い取り義務はありません。
企業の就業規則に退職時の有給買い取り義務が規定されていない場合には、買い取りを拒否されることもあります。
このような場合には、労働者側において、企業に納得してもらうように説得する必要があります。
例えば、企業が有給の買取を拒否しても、労働者の退職日が後ろにズレるだけなので、結局、同程度の金額を給与として支払わなければならなくなります。
しかも、有給消化の場合には、給与としての支払いになるため、社会保険料の会社負担分の支払いが生じてしまうため、企業側としても経済的にも不合理になります。
このように企業側が有給の買い取りに応じないことが不合理であることを説明して、買い取りを了承してもらうことになります。
6章 退職時の有給買い取りは退職所得|退職所得申告書を忘れずに
退職時の有給買い取りについては、退職所得として処理されることになります。
退職という事実によって、在籍時に有給を取得しなかったことを根拠に、一時金として支払われる手当であるためです(国税不服審判所平成23年5月31日裁決)。
そこで、所得税や住民税が源泉されたうえで、労働者に振り込まれることになります。
ただし、退職所得については、退職所得の受給に関する申告書を提出しておかないと、一律に20.42%の割合源泉されてしまうことになり、必要以上に多くの税金を源泉されてしまうリスクがあります。
そのため、有給の買い取りをしてもらう際に、支給日までに、企業に対して、退職所得の受給に関する申告書を提出する必要があるのです。
通常は、企業から退職所得の受給に関する申告書を提出するようにアナウンスがあり、書式等が交付されます。
もっとも、慣れていない企業の場合には、このようなアナウンスがされないこともありますので、そのような場合には自分でダウンロードして提出する必要があります。
以下の国税庁のページから簡単にダウンロードできます。
A2-29 退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁 (nta.go.jp)
7章 退職時の有給買い取り以外にも交渉すべき条件がある
退職時には、有給買い取り以外にも交渉すべき条件は多岐にわたります。
なぜなら、労働者としても、退職後のキャリアや生活を守る必要があるためです。
例えば、交渉すべき条件としては以下のようなものがあります。
②ガーデンリーブ
③会社都合退職
④アウトプレースメント
特別退職金とは、通常の対象金に割り増して支払われる退職金をいいます。退職金制度がない会社であっても、労働者に退職に応じてもらうための説得材料として、提案されることがあります。
特別退職金については、以下の動画でも詳しく解説しています。
ガーデンリーブとは、在籍期間を延長し、その期間につき就労を免除したうえで、給与を支払うことを言います。労働者が転職活動に集中できるように設けられる条件です。
ガーデンリーブについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
会社都合退職とは、失業保険に係る離職理由のことで、給付日数や支給開始日などについて、自己都合よりも有利に扱ってもらうことができます。
会社都合退職については、以下の動画でも詳しく解説しています。
アウトプレースメントとは、人材紹介会社による再就職支援サービスです。企業が人材紹介会社と契約して、労働者がサービスを受けることができるようにします。
アウトプレースメントについては、以下の動画でも詳しく解説しています。
退職勧奨された場合のNG行動と正しい対処法は、以下の動画でも詳しく解説しています。
8章 外資系企業のパッケージ交渉はリバティ・ベル法律事務所にお任せ!
外資系企業のパッケージ交渉は、是非、リバティ・ベル法律事務所にお任せください。
この分野は、専門性が高い分野であるため、弁護士であれば誰でもいいというわけではありません。
解雇の有効性につき見通しを分析したうえで、あなたの意向を踏まえて、外資系企業の性質に応じて適切に方針を策定する必要があります。
リバティ・ベル法律事務所では、解雇や退職勧奨事件に力を入れており、特に外資系企業とのパッケージ交渉について圧倒的な知識とノウハウを蓄積しています。
また、解雇やパッケージ交渉を含む退職勧奨対応については、依頼者の方の負担を軽減するために着手金無料、完全成功報酬としております。
初回相談は無料となっておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
9章 まとめ
以上のとおり、今回は、退職時に有給の買い取りは交渉可能かを説明したうえで、買取金額と拒否された際の対処法を解説しました。
この記事の要点を簡単に整理すると以下のとおりです。
“まとめ”
・退職時の有給買い取りとは、退職日時点の年次有給休暇の残日数に応じた手当を支払うことをいいます。
・有給消化と買い取りの違いを比較すると以下のとおりです。
・有給の買い取りについては、退職時であれば交渉可能です。
・退職時の有給買い取りの計算方法は、以下の3があります。
①有給の買取を平均賃金で計算する方法
②有給の買取を通常の賃金で計算する方法
③有給の買取を健康保険法上の標準報酬日額相当額で計算する方法
・退職時に有給買い取りを拒否された際の対処法としては、買い取りをしてもらえない場合には退職日を有給消化後にする旨を伝えて、その不合理性を説明することになります。
・退職時の有給買い取りについては、退職所得として処理されることになります。
・退職時には、有給買い取り以外にも交渉すべき条件は多岐にわたります。
この記事が退職時の有給買い取りについて悩んでいる労働者の方の助けになれば幸いです。
以下の記事も参考になるはずですので読んでみてください。
弁護士 籾山善臣
神奈川県弁護士会所属。不当解雇や残業代請求、退職勧奨対応等の労働問題、離婚・男女問題、企業法務など数多く担当している。労働問題に関する問い合わせは月間100件以上あり(令和3年10月現在)。誰でも気軽に相談できる敷居の低い弁護士を目指し、依頼者に寄り添った、クライアントファーストな弁護活動を心掛けている。持ち前のフットワークの軽さにより、スピーディーな対応が可能。 【著書】長時間残業・不当解雇・パワハラに立ち向かう!ブラック企業に負けない3つの方法 【連載】幻冬舎ゴールドオンライン:不当解雇、残業未払い、労働災害…弁護士が教える「身近な法律」、ちょこ弁|ちょこっと弁護士Q&A他 【取材実績】東京新聞2022年6月5日朝刊、毎日新聞 2023年8月1日朝刊、週刊女性2024年9月10日号、区民ニュース2023年8月21日